うさぎさんの臼歯の切削は僕も毎週のように行なう処置ですが、毎回怖い処置です。
しかも高齢のうさぎさんに多いのは当たり前なので、その分とてもとても気を遣います。
最短で2週間に1回になることもあり、繰り返される処置の中で命を落とした子もいらっしゃいます。
今回のケースは、相談者の方、普段かかっていた動物病院、新しく行かれた動物病院全てに
それぞれの「疑問」があります。
そしてやはり、インフォームドコンセントの不足です。
今回の場合は、ご家族の方が不正咬合についてあまり知識をお持ちでなかったことも、
不幸を招いているかもしれません。
麻酔量は間違いようが無いと思います。
ドルミカム(ミダゾラム)にしろドミトール(メデトミジン)にしろ、うさぎさんには教科書レベルの範囲を超えないものでしょう。
そして、一応、「うさぎは吐きます」。
確かに「吐きづらい構造」をしていますが、お亡くなりになる直前でなくて、元気なときでも嘔吐できます。
ただし、犬や猫や人のように吐くことは稀で、それがゆえに麻酔処置の前であろうとも、加えて低体温の心配も踏まえて絶食は行わないと思います。
誤嚥に関しては経験が無いのでなんとも言えません。
>レントゲンを撮ってもらうとやはり胃と腸には食べ物が詰まっていた。
うさぎさんは、たいてい常に食餌が胃に入っています。
牛と同様に常に食べ続けなければいけないからです。
おそらく絶食はしていないでしょうし・・。
ということは、麻酔処置で消化管の動きが遅くなったと考えると胃の中に食餌と思われるものが入っていても不思議ではありません。
むしろ、空っぽの胃袋がうさぎさんで見られるようならば、そのほうが危険だと思います。
他には覚えていればですが・・・もしかしてその写真で胃内容は十分なのに盲腸内容が無い、もしくは胃や盲腸にガスがたまっているとしたら胃や盲腸の停滞(噴門狭窄・毛球症・盲腸便秘など)が併発してた可能性もあるかもしれません。
特に噴門狭窄は、急変することもあります。
すると、不正咬合があってこれを放置したことが腸管の動きの停滞を招き、そこへ麻酔処置を行なったことでよりその重篤さを増した可能性も考えられます。
> 転院先の病院ではいつもの先生が「構造上うさぎが吐くことは考えられない。覚醒してないのに食べ物を与えたので誤えんしてしまったのではないか」との説明。ヨロヨロしているのはまだ麻酔がきれてないのかもしれないとのこと。
全てが「かもしれない」&「・・・ではないか?」ですよね?
しかも、先ほども書きましたが、今現在のうさぎ学ではうさぎが吐かない動物であるとはなっていないのは先ほども記したとおりですし、自分を守るためなのかもしれませんが予測で物事を決め付けるのはいかがかと思います。
しかもご家族が切羽詰っている時に・・・。
>肺に入っている可能性があるとの説明。
確かにうさぎさんは肺が小さくて、肺活量も少ないため読影が困難な場合もありますが、証拠もないのに「可能性」で話してしまうことにも疑問を感じます。
それでは、もし自分がこの患者さんをこの時点で診た場合にどうするか・・・ですが、ここのヒントだけで書かせていただきますと・・・
まず「うさぎは吐くことがある」ことを説明します。鼻からも吐物が出ているのであればノドの作りからも消化器からの嘔吐である可能性が高いです。
で、嘔吐が何故起こるかというと、食べ過ぎたからというよりは、消化管の動きの悪さに起因している可能性が高いと話します。
しかし、この時点で最も怖いのは呼吸器疾患です。
うさぎさんの呼吸器の異常は常に死と背中合わせです。
先ほども書きましたが肺が本当に小さいからです。
処置としてはまず、このうさぎさんの容態にもよりますが、少しの保定が可能ならば、そのまま腕の血管へ、無理ならば耳の静脈へ留置針という柔らかい針を入れて、いわゆる血管確保をします。
(昔は、耳の静脈をいじると耳が腐るといいましたが現在はそんなことはなくて重要な血管確保のルートとなっています。)
その際に呼吸が苦しくてマスクを嫌がらないならば、酸素吸入を始めます。
気管挿管はうさぎさんの場合咽頭けいれんを起こしやすいと思われるので行なわないと思います。
そして点滴を流して脱水させないようにします。
もしかすると腸管を動かすお薬を持続点滴に入れるかもしれません。
同時に酸素室に入っていただきます。
食餌は自由に取らせます。
炎症を抑えるような注射などをするかもしれません。
もちろん、あらゆるストレスは考えられますが、死んでしまいそうな時に移動するこ
ともストレスです。
同じストレスならば医療のもとに置くか、自宅で介護するかはもちろんインフォームドします。
その上で呼吸の状態を見ながら、少しずつ酸素を通常に戻すなりします。
その途中で血液だとかレントゲンが撮れそうならば実施するかもしれません。
それといつも患者さんに言うのですが「獣医師を信じてはいけない!僕も含めて。なぜなら、動物は獣医師の前ではイイカッコをする。本当の姿はご家族さんにしか見せない子が多いから」って、なのでもしも自宅に帰るとなっても、様子の悪さを逐次報告させます。
>それにくわえ容態が悪いにも関わらず連絡もしなかったことや謝罪の言葉も態度ことがとても頭にきています。
という、意思の疎通のなさに問題があるように見受けます。
(繰り返し同じことばっかりですね・・・)
> 転送先の病院からカルテが欲しい旨を電話にて伝えたところ
> 担当医ではなく院長が出てきて
> ”医療ミスでは無い”というニュアンスの話しをされました。
> カルテは 快くコピーをくれたものの抜けているように思います。
> それは転院してきたときの状況が全く書かれていないからです。
> やはり同業者を気遣ってのものでしょうか。
う〜ん・・・どうでしょう。
同業者を気遣うならば最初の時点で、裏づけの無い発言をしないのが普通かと思いますが、いかがでしょう?
もちろん、普通ならば、翌日早々にレントゲンとカルテを取りに来た向こうの先生との間に何か密談があったのか?と考えるのは普通だと思いますし、このような誤解を招く行為は慎むべきだったかもしれません。
> 12:45ごろ 処置終了 麻酔を切りしばらく酸素をマスクにて吸引させる
> 1:40ごろ 麻酔の覚醒が悪くなかなか起立できなかったが
> 起立可能になり入院ゲージに戻す
覚醒までの時間が長すぎますね・・・。
1時間ですもんね。起立可能まで当院では通常10分はかから無いと思います。
本来はこの時点でご家族に連絡をすべきでしたよね。
「目覚めが悪いんだ!今すぐきていただけませんか?」と。
> 4:40ごろ 入院ゲージの中でだいぶ動き回るようになったので
> ペレットを与えたところ一粒勢いよく食べるがその後15分位してから嘔吐。
> 水様の緑色もの。
> 以上がFAXに書かれていていたものです。
> 読むだけで吐き気がします。
> 「勢いよく動き回る」?
> わたしが5時頃迎えに行ったときには腰が立っていなかったんです。
> ボロボロの状態でした。
> 勢いよく動いていたとは考えられません。
考えられます。だいぶ動くというのは勢い良く動き回るとは違います。
もちろん、なぜペレットを一粒あげてしまったのか・・・?
また、本当にあげたのか?
(嘔吐の理由をこじつけるための虚言の可能性も・・・?)
分かりませんが、考えられると思います。
非常に難しいですね。誰が悪いのか?
と考えれば、僕はいつものかかりつけの病院の獣医師→処置をした獣医師→ご家族・・・と思います。
まず、一般の方の多くは奥歯が伸びると命に関わる?
がつながらないですよね。
すると、それを教えていくのは獣医師のクライアントエデュケーション(患者教育とでも言いましょうか?)になるわけですよね。
奥歯が伸び続けることで起こる弊害・麻酔自体の危険性・繰り返し麻酔をかけることへの危険性・・・
しかし、処置をしない場合のもっと怖いこと・・・
もちろん4歳のうさぎさんを若いとおっしゃるご家族の意識も低かったので、これらのことが悪くまわってしまったように思います。
やはり十分な話し合いと、納得がいかないならば治療をお願いしない・・・
このことは全ての患者さんのご家族に分かって欲しいですね。
なんで、お金払って命令されなきゃいかんのじゃ!とか、
うちの子にする処置をなぜ自分が選べないのか?とか、
危険率の話とか・・・
獣医師だってただのオジサンだったりオバサンだったりするわけです。
そんなに恐縮しないで・・!って思います。
最後になりますが、
頑張ってください!
そして人を・・獣医師を信じる心をどうかなくさないで・・・
諦めないで欲しいです。
亡くなったうさぎさんについては、いかなる理由があっても憎しみ...というマイナスの意識とともに記憶に残すのではなくて、楽しかった日々・・・というプラスの気持ちとともにずっと覚えていてあげられるように
獣医療過誤相談室アドバイザー獣医師